会員登録はコチラIR English
VOL.4 5月号 葉の茶 ~日本で育まれたもの~
おいしさで話をしよう
『おいしさで話をしよう』は、ダイドードリンコ製品の「こだわりのワード」に関連するプロフェッショナルな方を取材させていただき、その方の仕事ぶりやこだわりをご紹介していきます。
第4回は、葉の茶です。 徹底した品質管理のもとに大切に育てられた国産茶葉だけを厳選。香り豊かでしっかりとした旨みのある味わいに仕上げた本格緑茶飲料です。
0コンマ数ミリを制する和裁の技術 今月のプロフェッショナル『畳職人』
日本の伝統文化のひとつ、“畳”。その文字は古事記にも記されているが、畳の前身である“ムシロ”は弥生時代までさかのぼる。古代人たちは、米を収穫したあとの藁を何かに利用できないかと考えたのだろうが、藁を幾層にも束ね糸で締め上げ作った床材が、まさか現代人にまで愛用され続けるとは思いもよらなかっただろう。平成という世で「畳の可能性」を追求し続けている畳職人、植田昇さんは言う。「畳の香りには、人の心を幸せな気持ちにさせるスイッチがある。香りとともによみがえってくる思い出は、なぜか温かい。絶対に絶やしてはならないと感じるこのスイッチを来世にも繋いでいきたい」。日本生まれ、日本育ち。紛れもなく世界に誇れる日本の文化は、植田さんのような職人たちの手によって、何百年、何千年と受け継がれていくに違いない。
今回の『おいしさで話をしよう』のプロフェッショナルは、研究に研究を重ね、人に優しい畳作りをされている植田昇さんです。
洋室が多くなった日本家屋の中で、今また評価されている畳。機能性やデザイン性が認められ、海外でも人気が高まってきていますが、その多くが中国や台湾、ベトナム製なのだとか。植田さんは日本製の『本物』の良さを知ってもらいたいと海外でもPR活動をされています。
日本の気候風土の中で愛用され、さまざまな知恵と工夫が織り込まれている畳。 そこで、今回は植田さんにとっての“日本で育まれたもの”についてお話をお伺いしてきました。
藁を100年以上もたすことができる職人技
杉澤 畳の文化を広めようと、世界各地でPR活動をされているそうですね。
植田 エコロジー(人の生活と自然との調和・共存)を勉強しに行くという別の目的もありつつ、海外に出かけて日本の畳文化を紹介してきました。畳がこれほどまでに世界で評価されているのかと正直驚きましたね。それに、ヨーロッパの特にスイスやドイツ、フランスなどは、どの町のインテリアショップにも畳が置かれていたりして。和というものが確実に世界に浸透してきているんです。エコロジーを学びに行ったつもりが、逆に畳の文化を通して、日本人は究極のエコロジーを実践してきた民族なんだと痛感しました。

分厚い畳を驚くスピードで縫っていく植田さん。「糸はきつく締めたらいいというものではないです。畳職人の腕の見せ所かな」。
杉澤 畳を通してというと?
植田 昔の畳の芯材はお米を収穫したあとの藁が原料です。その上に畳表(たたみおもて)と呼ばれるござを敷いて、芯材と畳表を職人がひと針ひと針縫って畳に仕上げてきたんです。米が主食の日本ならではのエコロジーですよね。本物の畳って何年くらいもつと思いますか?

畳職人の7つ道具。お父様の形見の道具も大切に受け継いでいる。
今回のプロフェッショナル
畳職人 植田 昇さん
日本の畳業界におけるエコロジー活動の第一人者。全国の生産者・畳職人と共に安全な畳を作るネットワークを構築。 環境に配慮した製品として、各研究者・学識経験者との連携により研究・企画・開発を行い、2003年9月「若返る畳」ブランドを設立。現在、2012年のオリンピックを目標に「柔道畳」の復元プロジェクトが進行中。

「おいしさで話をしよう」レポーター
杉澤 友香
長い間日本で育まれ、人とともに進化してきた畳の歴史に触れることで、どうして畳の香りが大好きなのか納得ができました。日本人だからこそのスイッチ。植田さんが言っていたように、緑茶を飲んだときのほっとする感覚も、このスイッチによるものかもしれませんね。

2畳ほどの空間でもほっこりしてしまう畳の力。「海外の知人のお宅にお邪魔した時、フローリングの上に畳を敷いて着物を着てお茶をすすっている姿を見て驚いてしまいました(笑)」という面白エピソードも。
杉澤 30年くらいですか?
植田 100年くらいはもつんですよ。
杉澤 そんなにもつんですか!
植田 そのあとも芯材を細かく切って、土壁のひび割れを防ぐつなぎとなる寸莎(すさ)にすると何百年ともつんですよ。壁は土に返さずにまた壁にするから気の遠くなるようなリサイクルになるんです。藁は土の上にほっておけば、微生物によって3ヶ月~6ヶ月で土にかえるんです。でも職人の技を使えば100年以上もつ。それがごく自然な生活様式だったんです。
杉澤 日本人として胸を張れるお話ですね。

針の長さもこの通り。「海外に行って何が一番驚かれるかというと、分厚い畳を針で縫った時ですね。ほんとに縫うの?ってみんな目を丸くして見てますよ(笑)」。
植田 畳作りは素材と対話することが大切なんです。だから農家さんのところに行って一緒に草取りもしますし、畳の大敵である害虫や湿気についても随分と勉強しました。修業を始めてから15年間くらいは素材と喧嘩してばっかりでしたよ。畳作りって、同じものを何枚も作る単純作業に見えるでしょ?
杉澤 そんなことないです!
植田 なら良かった(笑)。畳も生き物なんですよ。素材がものすごく主張してきて同じものが作れない。畳はジグソーパズルみたいで、0コンマ数ミリっていうわずかな差で縫い上げないと床にピタッとはまらないんです。木の家だったりすると木も動くからなおさら難しい。僕たちは家具職人や建具屋さんみたいに見える職業だけど、畳は縫うもの。だから和裁職人と呼ばれる方がしっくりきますね。
日本で育まれてきたものには日本人の心を動かすスイッチがある
植田 平安時代には現代の畳に近いものが作られたとされています。畳は、その頃から絶えることなく日本で育まれてきた文化なんです。今は簡易なものも生まれ、本物の畳の香りや感触を知らない人も多くいます。柔道の畳も昔はビニールではなくて、本物の蚊帳吊草(かやつりぐさ)を使っていました。そんな本物の畳でする柔道の面白さを体感してもらいたいと、『柔道畳復元プロジェクト』を立ち上げ、128年前の畳も復元しています。
杉澤 128年前の畳。浪漫がありますね。
植田 普通の畳が100針縫うとすると、この畳は2000針以上縫います。もちろん手作業、縫ってる途中で手は血だらけですよ、氷水で冷やしながらするんです。今に伝わる昔のものは、誰かが必死に守り続けてくれたものなんですね。
杉澤 畳の良さが再び見直されていますが、植田さんが思う畳の良さとはなんでしょうか?
植田 最近は、精神面への可能性を感じています。草木を使って脳を活性化する園芸療法というリハビリがあるんですが、先日、その療法を取り入れている老人ホームに畳を持って伺いました。喋れるけど、自分の名前も分からないような方がいらしたんですが、畳の香りをかいだ瞬間に、小さい頃の思い出がわーっと出てきて、突然子どもの頃の話を楽しそうに始められたんです。自分が育った家とか、家族のこととか、施設の人も私たちも驚きました。その時、畳の香りには日本人の心を動かすスイッチがあるんだと感じました。

「畳の感触が全然違う!畳ってこんなに柔らかいものだったんですね。しかも、一つひとつ手縫いだなんて信じられないです」と128年前の畳の感触に驚く杉澤さん。
柔道の創設者、嘉納治五郎氏が研究に研究を重ね開発を続けていたという柔道畳。滑りがよくて、踏ん張りやすいという、まさに柔道のためにつくられた畳。畳に使われている麻糸も復元した。
畳表となる藺草(いぐさ)が編まれたござ。「そうそう、これが畳の香り!」と杉澤さんのスイッチもON!
杉澤 私もこちらにお邪魔させていただいて畳の香りをかいだ瞬間、なんともいえない懐かしい温かな気持ちになりました。
植田 それが日本人のスイッチなんですよ。例えば緑茶もそうかもしれない。人それぞれにスイッチが入る香りがあるとは思いますが、普段の生活ではなかなか気がつかないですよね。今回の体験を通して、人には無意識に温かな感情を呼び覚ますスイッチが必要なんだと、畳の重要性を再確認しました。もし畳や緑茶がなくなってしまったらと考えると…、怖くなりますね。
杉澤 ずっと続いてきた畳と日本人との関係は、DNAの中に刻まれているのかもしれませんね。
葉の茶